おひや

益田ミリ「言えないコトバ」は、
“極私的な抵抗があって口に出せない”単語のエッセイ。


たとえば「おひや」。


  ただの水なのに、場所によって呼び名を変える。
  変えることにとまどわずにいられない私。


わはは。
おれ自身は「おひや」は使うけど、気持ちはよーくわかる。


「おあいそ」「チェック」。そうそう、おれも使えない。
益田嬢が使うのは「お会計」。おれは「お勘定」だ。


ちょっと驚いたのが、肉の焼き方
レア・ミディアム・ウェルダンが


  いかにも背伸びしているようで恥ずかしく、
  できるだけ周囲の人々に聞こえぬよう、
  あのぅ、よく焼いてください‥‥。


という話。あーあー。そーかも。
いま想像しての話だが、おれも「ミディアムレア」には
いっしゅん恥ずかしい気持ちがよぎりそうだ。
そこまで細かく刻んで注文するおれってなによ、と。



家族回りの言葉にも共感。
他人に対して自分の身内を、


  「わたしのおじいちゃんが」とは、さすがに言わないが、
  でも「祖父・祖母」を使うときには、いつもかるーく緊張してしまう。


うんうん。初対面なら「祖父・祖母」を使うけど
2、3回会ってまあまあな距離感の相手には、おれ、
「うちの おーばばが」な、言い方をしてるなあ、そういえば。
「おふくろ」も、母親当人に向かってはもとより、
他人にも「うちのおふくろが」とも言えないなあ。



エッセイひとネタ目の冒頭に


  口に出しているコトバよりも、あえて口に出してないコトバのほうが、
  その人物を知ることができるんじゃないだろうか?


とあったけど。その、とおりよね。



牛丼屋での「つゆダクで」を、一度ためそか思いつつ、いまだ言ったことがない。おれ。
これだけ定着しても、


メニューにないものを頼む自分 に、抵抗があるのだ。