ぼくたち皆の今までの仕事、これからの仕事の総和が、

丸谷才一がなくなった。
目の前の棚にささっている「挨拶はむつかしい(1985)」。
苦しい闘病の末、若くして亡くなった畏友への弔辞の一節。
丸谷さんは、彼の無念に思いをはせ、こう続ける。


  ただ、仕方がないから、ぼくはかう考えて自分を慰めることにします。
  橋本一明にとっては、彼の最大の仕事は彼の生活だつたのだ、と。
  短い一生のあひだ、君はみんなを励まし、勇気づけ、導き、それから
  慰めてくれた。君の立派な、正しい生き方は、ぼくたちみんなにとつての
  何かひどく大切なものだつた。そのことは今後も変らないだらう。
  つまり、それなら、ぼくたち皆の今までの仕事、これからの仕事の総和が、
  君の仕事といふことになるのぢやないか。そんなふうに思つてみるんです。
                     ※「励」と「総」は旧字体


…。


読みかけのまま部屋のどこかに紛れている
「挨拶はむつかしい」の姉妹編はでてこない。
あした、部屋をすこしかたづけよう。