えーと、ふーん、全部食べたんだ

ようやく立川談春の「赤めだか」が近所の本屋に入荷した。
師匠・立川談志のもとで前座・二ツ目修行をしていたときの青春記。
“しごとあたま”の回復待ちに読み始めたら、あああ、止まらない。
談志の凄みと情愛が、ほんとによく伝わってくる。


師匠に空腹を悟られまいと努めていた弟子達が、
ある日、スーパーの前であさましく菓子パンを食うところを見られてしまう。
翌日いつものように師匠宅に行くと、
談志が十人前のチャーハンと焼きそばを大汗をかいてつくっている。
全員でぺろりとたいらげ「御馳走様でした」。


  「えーと、ふーん、全部食べたんだ」


少し顔色の変った談志。
冷蔵庫から自分が食う用に最上級のステーキ用ロース肉を取り出し、
塩、こしょうを振りながらつぶやく。


  「馬鹿野郎め、俺は、手前らだけ腹一杯にするために汗かいて
   チャーハン作ったわけじゃねェ」


だはは。そら、そうだ。師匠のぶんを取り置き忘れる弟子達への、
復讐のしかたが かいらしい。


※※
同じく弟子の志らくが「シネマ落語」をはじめた頃、
マクラで談志の、こんな話をしてたのを思い出す。
えーと。
談志のおつきで北海道へ行き、かにを食べることになった。
欠食児童のように ほじっては食べほじっては食べる志らく
「下品な食いかただねえ、こういうふうに食うんだ」といいながら、
小鉢にゆうぜんと かにの身をほぐして積みはじめる。
あとでまとめて食べる算段なのだ。
それを聞かずに ほじっては食べほじっては食べ、を続ける志らく
やがて談志のかにが こんもり積み上がった。のを談志、
志らくに差し出し、
「ほれ食え」。


だはははは。…じわーん。